前回、契約をしたのに1年間も鍵を取りに来なかった人の記事を書きましたが、世の中には、上には上がいるものです。
人口が多ければ多いほど、奇人変人に出くわす可能性が高くなるでしょう。私が住んでいる片田舎でさえ、それなりに強烈な印象を残すお客様もいらっしゃいます。ということは都会はきっと、それはもう半端ない方もいらっしゃるんでしょうね…。
さて今回は、まさかの2年間も無駄に家賃を払い続けてしまった男性のお話しです。決して!頻繁に起こりうる話ではありません。その男性にとっては悲劇以外のなにものでもないですが、大変失礼ながら、我々にとっては奇跡との遭遇に近いかもしれません…。
特徴がない人
その男性、仮にMさんとしましょう。Mさんは、営業マン的にはとてもありがたいお客様でした。
営業マンは、お客様の希望条件に合う物件の中から、自分にとって実入りの良い物件を優先的に紹介していきます。これは営業マンなら当たり前のことですね。
では、ありがたいお客様とは?
- 実入りの良い物件を疑うことなく気に入ってくれる。
- 変な駆け引きもしてこない。
- オプション(消毒とか安心サポートとか)もそのまま付けてくれる。
- 家賃や値引き交渉も一切してこない。
- 審査も全く問題なく、さらっと通過する。
- 電話をかければすぐに出てくれて、出られなくても必ず折り返しをくれる。
- メールの返信も早い。
- こちらの都合の良い時間に契約に来てくれる。
- 初期費用は契約の当日か翌日にきちんと振り込んでくれる。
- 多少の不手際にもまったく文句を言わない。
- 入居後も一切連絡してこない。
これはとてもありがたいお客様です。言うなれば神です。
しかし、神であればあるほど、正直すぐに忘れてしまうのが現実です。昔、学校の先生がこんなことを言っていたのを思い出しました。

案外、不良とか、ちょっとヤンチャだったり、成績がよくなかったり、何か問題を起こす生徒の方が印象に残っているし、卒業してからも会いに来てくれることが多い気がするなぁ。
なるほど。ちなみに私はその真逆。成績は中の中。悪目立ちするわけでもなく、成績が良いわけでもない。THE・平凡。
どうでも良い私のプロフィール。
そしてMさんも、ほとんど神に近い方でした。昔、学校の先生が言っていたことと共通しているように思います。要は特徴がないんですよね。とっても良いお客様なんだけど、特徴がないから忘れてしまう…。まぁ何の問題もなく入居して頂いたわけです。
特徴がある人
Mさんとは反対に、忘れたくても忘れられない、特徴的な人ってどんな感じでしょう?
- 家賃も初期費用も1円単位で超値切ってくる。
- 1回に行く案内の件数が多すぎる。
- 親が出しゃばりすぎる。
- 彼女(妻)が強すぎる。彼氏(夫)は空気。
- 契約書を一言一句漏らさず読む。
- 決めた物件を何度も何度も内覧したがる。
- 微妙な知識でマウンティングしてくる。
- 何年も理想の物件を探し求めている。
- 絶対に堅気ではない。
- 希望条件のハードルが高すぎる。
癖が強い人、挙げだしたらキリがありませんね。
当人の性格だけではなく、同居人、親が強烈だと印象に残ります。こういう人は、良くも悪くも忘れられませんので、何年後かに再度部屋探しに来たとしても、おそらくすぐ思い出せるタイプでしょう。

真冬なのに半袖半ズボンとか、ジェイソンステイサムばりに髭が濃いとか、見た目や身体的特徴もやはり印象には残りますね。
退去連絡について
入居後、トラブルがあった時、何か相談した時など、入居者が連絡をするのは基本的に管理会社になります。これは結構な割合で勘違いしている方がいらっしゃいます。
仲介会社は管理会社ではない。
※仲介会社が管理会社という場合もある。
仲介会社と管理会社の関係性は下記記事をご参考下さい。
これはぜひ覚えておいて下さい。仲介会社はただの窓口にすぎません。むしろ入居後、あなたが安らかに過ごせるかどうかは全て管理会社次第です。(これはまた別の記事に書きたいと思います。)
さて、「入居後の連絡先は基本的に管理会社へ」ですね。つまり、退去したい場合も当然、管理会社に連絡しなければなりません。
Mさんが入居されてから何年後かに連絡がありました。

どうもお久しぶりですね。今住んでいるお部屋を退去したいんだけど。

お久しぶりです…(記憶にないけど)。
退去ですね、こちらでは受付できませんので、管理会社へご連絡して下さい。

ついでに次の部屋も探したいんだけど、いいかな?

ええ、もちろん!ありがとうございます。
じゃあまたご来店お待ちしております。
記憶にない時は過去の履歴を調べます。名前と物件名、前回借りて頂いた時期を調べて、記憶を辿ります。私の場合はどれだけ特徴のない神ってるお客様でも、大体何となくは思い出せます。
実際にMさんがご来店され、お部屋探しをしました。が、今回はどうしても他社の専任物件で決めたいとのことでしたので、残念ながら私ではお申込み頂けませんでした。

また機会があればぜひ、お声掛け下さいね。
これで終わった…はずでした。
衝撃の事実
Mさんが他社専任物件に引っ越してから2年後、衝撃の事実が発覚します。Mさんから連絡が入ります。

前にあなたのところで借りた部屋は解約をしてくれたのか?

…は?

いやだから、私が前に借りていた部屋はちゃんと解約の手続きをしてくれたのかって聞いてんの!

???(確かに過去の履歴を検索すると契約をしてくれているな…)
いえ、解約の手続きをこちらですることはないですよ。
先に書いた通り、「仲介会社=管理会社」と思っている方は多く、部屋を借りたところ(仲介会社)に退去の連絡がかかってくることはよくあります。仲介会社で退去の手続きは出来ない旨を伝え、直接管理会社に連絡をしてもらうよう促します。
ただ、「仲介会社=管理会社」ということもありますので、その場合はそのまま退去の手続きをします。
Mさんが住んでいた物件は、「仲介会社=管理会社」ではないので、直接連絡してもらうよう伝えました。が…

いーや、私は2年前、その物件から退去する時にそちらへ連絡し、退去の手続きをしてもらうよう頼んだはずだ!

(いやぁそうは言っても2年前のことだし正直覚えてないな。ただいつも「退去の連絡は管理会社へ」という流れだし、こちらで手続きをすることもないはずだけど…。)
普段から、退去の手続きをこちらですることはありませんので、その時もそのようにお伝えしたはずですが…。何かありましたか?

まだ契約した状態になっている!!!

…は?

だからまだ家賃払ってたんだって!!
どうやら部屋を解約出来ておらず、何と2年もの間、2重で家賃を払い続けていたというのです!マジかー…。いや、それは大変だ。ここで2つの疑問が湧いてきました。
- なぜ家賃を払い続けていることに気が付かなかったのか?
- そしてなぜそれに気づいたのか?

通帳に記帳しないから気が付かなかったんだよ。解約したと思ってるんだから仕方ないだろう?
前の物件の管理会社から更新の通知が来て分かったんです。
怒りの矛先
百歩譲って、次の物件を私で決めて頂いていたなら、退去の手続きを促すチャンスがあったかもしれません。しかし、他社の専任物件を申し込みされるとのことでしたので、私たちにはどうすることも出来ません。それなのに…

おたくがきちんと退去の手続きを取ってくれなかったせいで、無駄な家賃を払い続けることになったんだ!
2年分の家賃を補償しろ!
どうも怒りの矛先がこちらへ向いている様子で。
毎月の家賃が5万円。その2年分。
5万×24ヶ月=120万円

120万円をこちらが払えと?
無理!!
Mさん、馬鹿を言っちゃいけませんぜ。一体どういう理屈でこちらが払わなければならないんでしょうか。
もちろん、もしかしたら退去の手続きを請け負っていた可能性がまったくゼロではないでしょう。こちらもその証拠はありませんのでね。おそらく藁にもすがる思いでその可能性にかけているんだと思います。
だって120万円!!
そりゃキツイですよ。Mさんは決して裕福そうな方ではありませんでした。どんな理由であれ、120万円を失うのは相当きつい!
でも反対に、120万円もの金額を、正直落ち度が見当たらない私たちが払うわけにはいきません。個人的に「少しでも何とか…」と思ったとしても、会社がそれを許すはずがありませんからね。
当然、管理会社としても退去連絡が入ってない以上、Mさんが住んでいても住んでいなくても、ただただ家賃を回収するだけです。一応、管理会社に相談してみたとしましょうか?

実は2年前から住んでいなかったんですよ。

…だから?

いや、家賃、何とか、返して、もらえませんか?

…無理ですね。
まぁそんなのは通用しません。
管理会社からの更新の通知で知ったわけですから、既に管理会社には相談済みですよね。管理会社からもこちらへ連絡がありました。が、やはり上記のようなやり取りをしただけで、当然管理会社も家賃を返金することはしないそうです。
そりゃそうだ。
それで怒りの矛先がこちらに向いたわけですね。さすがの神でも、やはり120万円の損失は看過出来ないよなぁ…。
言った言わない問題
さて、よく起こりうるのが、言った言わない問題です。水掛け論とも言いますかね。
双方が自分の都合や場合によっては証拠のない事を主張し、争点がかみあわず、いつまでたっても解決しない議論のこと。
本当によくあるんですよ。人間というのは、自分にとって都合良く解釈するように出来た生き物なんでしょうか。
例えば設備としてエアコンが付いている2LDKの物件があったとしましょう。※2LDKの場合、エアコンはリビングと部屋と部屋、合計3台のエアコンを付けられることが多いです。

エアコンって(全部屋に)付いてますか?
※カッコ内は心の声。

(リビングに1台)付いてますよ。
※カッコ内は心の声。
これは入居後にどうなるでしょうか。

エアコン、リビングにしか付いてないけど?全部屋に付いてるって言わなかった?

エアコン付いているとは言いましたけど、全部屋に付いているとは言ってないですよ。

絶対言ってたよ!だからエアコン買わなくていいと思ってたのに。あと2台そっちで付けてくれよ!!
これはまぁ営業マンである私が不親切ですね(笑)
ちゃんと「リビングに1台」と伝えてあげていれば防げたことです。しかし、ちゃんと伝えていたにもかかわらず、そんなこと聞いてねーよと、無茶苦茶な要求をしてくる人が必ずいます。
そういう時のために契約者や重要事項説明書があるんです。
契約書類に基づき、果たしてその要求を飲まざるを得ないのかどうかを確認します。さて、今回のMさんの場合はどうでしょう?
Mさんが仲介会社に退去の手続きを依頼した?それとも依頼していない?
そしてそれを仲介会社が請け負った?それとも請け負ってない?
そういうことが争点になるわけですが、結局、言った?言ってない?の問題になるので、やはり契約書類に何がどう書いてあるかを確認するしかありません。
重要事項説明書に「管理の委託先」や「管理会社」という項目の記載があります。入居後の連絡先になるわけですが、重要事項説明として、その部分をきちんと説明をしています。
で、重要事項説明は宅建士(宅地建物取引士)が必ず説明しなければならないもので、当然Mさんの契約の時にも説明しているんですね。そしてその書類にMさんの署名・捺印を頂いてます。
つまり!契約書類に基づけば、「私たちはちゃんと説明してますよ?」と言えてしまうわけです。

Mさん、言った・言ってないの水掛け論になってしまう以上、契約書に基づき判断するしかありません。
重要事項説明書に管理会社の連絡先が書いてあり、入居後の連絡はそちらへとご説明させて頂いております。それは、宅建業法で定められたものであり、私たち仲介会社は必ず行わなければならない行為です。
ですので確実にその説明は行っており、そしてその書類にMさんの署名・捺印があります。
Mさん、大変恐縮ではありますが、私たちは責務を果たしているのです。

…そんなのずるい!
↑
本当にこう言いました。
さて、いかがでしょう。Mさんと同じように、「ずるい!」と思いますか?
否定はしません。例えばMさんが退去の手続きを依頼して、そしてそれを仲介会社が本当に請け負っていたとしましょう。まだお互い記憶にあるうちは、もし仲介会社が手続きを怠っていたとしても「あなたに退去の手続きをお願いしましたよね?」と問い詰めることが出来ます。
ただ2年も前の話になると、さすがにお互い記憶があやふやになりますから、すっとぼけられる可能性が高いです。で、退去の手続きを依頼したか、それを請け負ったかなんてそんなことは契約書に書いてあるはずもありません。
残念ながら、そういったトラブルを回避するためには、ご自分で管理・把握されるしかないのです。大事なことは、
- 必ず書面で保管すること!
- もしくはメールでやりとりすること!
- 写真や動画に残しておくこと!
- 担当者や電話口の人の名前を聞いておくこと!
- 日時も記録しておくこと!
- 契約書や物件資料も必ず保管しておくこと!
ですよ。言った言わないになったら中々勝てませんからね。必要なのは記憶ではなく、記録。つまり証拠です。
これだけは言いたい!
120万円を失った苦しみを何とか拭いたい気持ちは分かります。怒りの矛先を仲介会社に向けたくなるのも、百歩譲って理解しましょう。でもこれだけは言わせて下さい。
気付け。
頼む。もっと早く気付いてくれ。
通帳は記帳しないタイプなのかもしれない。毎月出費が多いとは思わなかったかい?なぜ気が付かなかったのだ…。

納得いかない!払ってくれ!!
と、2~3回来て懇願されましたが、

私たちに出来ることは何もありません。
そしたら…

じゃあこっちが泣きを見るしかないんだな!120万損したわっ!!
って言いながら帰っていきました。
だって何も出来ないんだもん…。皆さん気を付けて下さいね。
ではまた。
そういう話は大好きです!
(自分で接客はしたくないけど)