どんな仕事でもそうだと思いますが、5年も10年も同じ仕事をしていれば想定外な出来事を何度も経験することでしょう。さすがに一発退場レベルのことはそうそうないと思いますが、そういった想定外な出来事が起こり、対処し、起こり、対処し、起こり、対処し、を幾度となく乗り越えて、プロフェッショナルになっていくんですよね。
しかし如何なるプロフェッショナルといえど、人と関わる仕事である以上、やはり想定外な出来事との遭遇は避けられません。そして、関わる人が増えれば増えるほど想定外な…いや、想定外というより、もはや奇奇怪怪な出来事が起こります。
さて今回は、賃貸あるあるトラブルをご紹介していきたいと思います。
個人の大家さんが管理している物件について
例えば、賃貸物件を下記の2つに分けたとします。
物件の管理を、会社が行っている。
物件の管理を、個人の大家さんが行っている。
皆さんどうでしょう?どちらの方がトラブルになりやすいと思いますか??
そうですね、個人の大家さんが管理をしている物件の方ですね。
いやいや、もちろん大家さんによりますし、地域性もあると思いますよ。私のいる地域では、「個人の大家さんが管理している物件」というのは本当に少なくなってきて、感覚ですけどおそらく全体の1~2%程度しかありません。だからまぁ余計目立つのかもしれませんね。
トラブルになりやすい一番の理由としては、
「大家さんが時代の変化についていけてない」
だと思います。
- 120年ぶりに民法改正(2020年4月)
- 原状回復のガイドライン
- コンプライアンス
- 個人情報保護
- おとり広告
- 口コミ
- SNS
- 人気設備
- オンライン内見
- IT重説
- 360度パノラマ写真
などなど、賃貸の業界も目まぐるしく変化しておりますが、現場の我々でさえ手探りな状態で何とか時代に取り残されないよう必死なんです。
片や、大家さんは?
それなりにご高齢だったり、(不動産以外の)お仕事をされていたり、昔の儲かった時代を忘れられなかったり、こだわりが強すぎたりと、中々変化出来ずに、時代に取り残されてしまっているなーと感じることが多々あります。
大家さんのその感覚がプラスに働くこともありますが、サラリーマンの我々は、もちろんコンプライアンスや法令を遵守せねばなりません。なのでおそらく昔より、丁寧な対応、顧客満足度を意識した接客が求められます。
反対にお客様はどうでしょう?
スマホでちゃちゃっと調べられるからそれなりの知識もある、接客してくれる営業マンも丁寧、そりゃあね、次第に求めるレベルも高くなっていきますよ。
なにせお客様ですからね!(悪意アリ)
その求められるレベルに合わせて、接客の質を上げて、もちろんミスもなく、誠心誠意、顧客満足度を高め、って感じ。グーグルの口コミで★1つなんてもってのほか!炎上なんてしようものなら一発アウト!
そんな時代に、前時代的な感覚を持つ大家さんと出くわしたらどうするのか?
それはそれで、無下にすることは出来ません。「お客様」とは、お部屋探しをされる方だけを指すわけではなく、大家さんもまた、私たちの「お客様」なんです。
紹介する物件を供給してくれる方ですからね。管理をお任せ頂けるのであれば、そこにもお金が発生します。
賃貸物件を仲介をするのが私たちの仕事です。
仲介【ちゅうかい】
《名・ス他》両者の間にはいって、とりついだり、まとめたりすること。なかだち。あっせん。
私たちは考えます。
時代に取り残されて、しかも取り残されていることにさえ気がついておらず、私たちの話も聞こうとしない大家さんに、しょっぱなから何故かケンカ腰で、原状回復のガイドラインに基づいた知識をひけらかしてこられるこのお客さん…。
ハイ終了~。ムリムリ。到底ムリでーす。絶対にやりたくありませーん。
(出来れば他社さんで申し込みされてくださーい…)
と、思うことも実は結構あります。絶対に合わない!クレーム必至!!
・食べ物で例えるならシュークリームとキムチ
・ONE PIECEで例えるなら天竜人とDの一族(諸説あり)
・見た目で例えるなら元首相とマスク
・声で例えるならアニメ版るろうに剣心の緋村剣心とその声
それでも入居者さんがその物件に決めたいと言ってきたときは、腹を括るしかありません(不本意)。
ありとあらゆるデメリットを双方に伝え、何度も何度も確認し、書面にも残し、入居して頂きます。
がっ!
それでもやっぱりクレームになるんだよなぁ。
入居日、玄関を開けるとそこには…
上記の例とは違いますが、これは、私がこの仕事を始めて4~5年が経った頃でしょうか。賃貸の仕事は、同じ地域で4~5年も経験を積めば、誰でもある程度のことは出来るようになっていると思います。立派な中堅です。
部屋探しから入居までは当然のことながら、クレームやトラブルも一通り対処しており、よほどのイレギュラーがなければそんなに困ることはないよねー?と、良くも悪くも仕事に慣れてしまっていた時期でした。
その大家さんとは身内からの紹介で、取引が始まりました。物件の管理をお任せ頂くことになり、最初のお客様の時でした。
身内の紹介ということもあり、やはり最初はスムーズに話が進み、特に困ることもなく、
このまま何も問題なく入居してもらえそうだ。
と、安心していました。
この時、我々はまだ気づいていなかった。その大家さんの本当の姿を…
その最初のお客様は、おじいちゃんです。定年退職されたおじいちゃん。クリーニングが終わっていないお部屋を内覧され、そのままお申込み頂きました。どちらかと言えば細かい方で、
どうせこれからクリーニングをするんじゃろ?
と、あれやこれやと注文を付けてきたんですね。しかも普通なら「それは無理です」という内容で、
- キッチンの吊り戸棚(銀色のやつ)を外しておいてくれ
- カーテンレールも自分で付けたいから外してくれ
- ベランダのひび割れが気になるから塗り直してくれ
- ウォシュレットを自分で付けたいから便座だけ外しておいてくれ
と、こんな感じ。
最初でしたので、お近くに住む大家さんもたまたまそのご案内に同行され、一緒におじいちゃんの注文を聞きながら、
あーこれね、はいはい。いいですよ、やっときますよー。これくらいなら自分でも出来るから。
と結構軽い感じで承諾しちゃってたんですね。というのも大家さん、DIYというか、自分で色々やっちゃうタイプの方で、本人曰く割と何でも出来ちゃう…らしい。
通常私たちは、上記のような要望は断ります。不具合があれば別ですが、そうじゃなければ現状でご入居頂くものです。そもそもあまりないような要望ですし、要望があって大家さんに聞いたとしても「そこまではやりません」という回答がほとんどです。なので、今回の大家さんが承諾したことについて、
え?ホントにいいんですか?
という驚きがありました。でもお客様の前で大家さんが了承されるのであれば、私たち仲介者がそれを拒む理由もありません。
この時点で、契約開始日まであと3週間。
その間、契約を済ませ、初期費用も受領し、あとは大家さんによるクリーニングの完了を待つのみ。おじいちゃん(お客様)も少々細かいが決して悪い人ではなく、無理難題を聞くうちに私のことを信頼してくれて、大家さんにも菓子折りを持っていくほどに。
さぁ残り1週間。
クリーニングの進捗状況に憂慮しながら、でもまぁ1週間あれば終わるか…と大家さんにまかせ、刻一刻と時が過ぎ。
あと3日。
急遽、鍵の交換をこちらで手配することになったので、鍵を交換しました。3本あるうちの1本は大家さん、2本を入居者へ渡します。あと3日という段階ですが、クリーニングがまだ完了しておらず…。さすがに不安になった私は、
大家さん、入居までに間に合いますか?何かこちらで手伝うことはありますか?
いやー大丈夫大丈夫、何とか仕上げるから。ご心配かけてすまんねー。ありがとう!
そう、大家さんも決して悪い人ではない。「まぁ何とかなるっしょ?」みたいな雰囲気はありますが、身内の紹介だし、初めての取引だし、そんなにきつくも言えないし…。それでも昨今の状況や、期日もきちんと伝えてあります。まさかね…なんて多少思いながらも、大家さんにまかせました。
契約開始日の前日。
普段、契約開始日までに一度は室内を確認しに行きます。特に、今回のようにクリーニング前に内覧された場合などは気を付けます。
- 設備の不具合はないか?
- クリーニングし忘れている箇所はないか?
- お客様からの要望にきちんと対応しているかどうか?
案内時に既にクリーニング済みで、お客様からの要望も特になければ確認も行かないですけど。
さて、前日。さすがに終わっているだろう?いや、むしろ終わっていてくれ!鍵渡しはもう明日だぞ…どうだっ!?
ガチャ…。
…
終わってないんかいっ!!
ブルーシートに脚立、部材に工具。マジかー…。
大家さん、明日ですよ?マジで!絶対に今日中に仕上げて下さいね。本当にお願いしますよ。明日から契約開始で家賃も頂くので、頼みます!
ごめんごめーん、ちょっと時間かかっちゃったけど、徹夜してでも今日中には終わらせるからさっ!大丈夫!
明日の朝、10時くらいには鍵をお渡しする予定ですから…じゃあお願いします!
契約開始日当日。
大家さんからの連絡は特になし。さすがにあれだけ言ったから終わらせてくれたでしょ。
あ、どうもおじいちゃん。大家さんギリギリまでかかっちゃったみたいだけど、何とか終わらせてくれたと思うから。引っ越しはいつ?とりあえず今日は自分で掃除して、3日後に引っ越しね。引っ越し頑張ってちょうだい。もし何かあったらまた連絡してよ。
ふー。とりあえず鍵渡しは終わったけど、ここから物件まで車で15分くらいか…電話が鳴らないことを祈るしかないな…。
15分後。
おじいちゃんからの電話が…!!!(頼む、お礼の電話であってくれ…!!!!!!!)
あのー、だしのりさん?玄関開けたら大家さんがいたんだけど?
…はい??大家さんがいたって???
そう。何かまだ掃除してて、何とか昼までには終わらせるっていってるんだけど。
しゅーーりょーーーーーーーーーー!
…おじいちゃんごめん。とりあえずすぐ行きます!
現地到着。
大家さん、これは一体どういうことですか!?(怒)
いやー申し訳ない、ちょっと終わらなくて。あはは。
…(終わらなくて、じゃねー!)。
結果、2週間も引っ越し日をずらしてもらい、当然その間はフリーレント(当たり前だバカヤロー!)。おじいちゃんは、
まいっちまうけど、しゃーないわ。きちん仕上げてもらった方がいいから、しっかり頼むよ!
おじいちゃん、神。変なところ細かい割に漢気を見せてくれました(笑)。でもそういうタイプで良かったー…。心の底から良かったよぉ。本当にそうじゃない人だったら終わってた。仲介をしたあんたが悪い!と言われてもおかしくないしね。
今でもそのおじいちゃんとは仲良しです。
教訓的な?
これがもし法人契約で、引っ越しが鍵渡し当日、しかも既に引っ越し会社が荷物を持ってきてしまっていたとしたら…想像するだけでもゾワゾワします。
普通、おじいちゃんと同じ状況に陥ったらどうでしょう?
あなたはきちんと契約もして、お金も払って、無理な日程でお願いしたわけでもなく、引っ越し会社もライフラインも手配して、何なら大家さんに菓子折りまで持参して、いざ新天地へ!
鍵も普通にもらいました。仲介店の人(私ね)も何も言ってなかったのに、鍵を開けたら作業中って…。
絶対ムカつくでしょ!?
いやーこの文章書きながら自分にムカついてきましたもん…。これはあり得ない。おそらく自分がおじいちゃんの立場だったら、大家さんにも仲介店の人(私のことね)にも間違いなく怒ってたな。フリーレントで済ませようとは思わないね!!
おじいちゃん本当にごめんね。申し訳ありませんでした。まったく困っちゃうよねぇ、あの大家さんったら…。
というわけで皆さん。
もしクリーニング前に内覧をして申し込みをする場合、日にちに余裕があれば必ずクリーニング完了後に再度内覧しましょう。もし遠方いる行けない、とか、忙しくて内覧出来ない場合は、仲介店の担当者に写真を撮って送ってもらいましょう。
で、申し込んでからそれをお願いしても、嫌な担当者の場合は撮ってきてくれないことも考えられるので、クリーニング後の写真を送ってもらうことを前提に申し込みをしましょう!申し込む時に、おおよそのクリーニング完了日を管理会社に確認してもらい、いついつまでに写真を送ってもらう、というスケージュールを立ててもらうとよろしいかと。
トラブルって、いざ起こると対応中は本当に嫌ですよ。神経も磨り減るし、時間も取られるし、疲れる。でもそれが解決すると、気が付けば笑い話になってるし、誰かにしゃべりたくなるんですよ。
反対に、誰かのトラブル話も聞きたいですけどね。
だって「対岸の火事」だし(笑)
まぁ同じことを経験していればアドバイスしてあげられることもあるし、知識として頭の片隅に入れておけばいざという時に役立つかもですしね。
大体いつも、「あーあるある。はいはい、いるいるそういう人!」って言いながら「まぁ頑張れ、頑張ろう!」となりますね。
いやぁホントに、気を付けて下さいね、営業の方も…。
ではまた。
ほんとーに不思議ですわね。